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溶存酸素にまつわる話題 2002.11.16 最終加筆2003.01.08

キスに限らず魚にとって彼らの棲息の場所である海水(水)に溶けている酸素の量は非常に大きな問題です。以下に水温と溶存酸素量を示します。

気体の溶解度は、1atmの気体が溶媒と接しているとき、溶媒1ml中に溶け込む気体の体積〔ml〕を、標準状態での体積に換算して表すことが多い。 気体の溶解度は、一般に高温になるほど小さくなる。☆温度が高いと、溶媒分子や溶けた気体分子の熱運動が激しいため、気体分子が溶液中から空間へ飛び出しやすいから。

気体

0℃

20℃

40℃

60℃

80℃

酸素 O

0.049

0.031

0.023

0.019

0.018

 

 

黄字部分出典:http://www.asahi-net.or.jp/~ye3t-hrby/kagakusiryo/kagakusiryo17.html

空気中においては酸素の量は約20%を占めているわけですので、水中の酸素の量がいかに少ないかがわかります。さらに水は粘度が高い為に呼吸運動は想像以上の大きなエネルギーを費やしているそうです。ちなみに空気中で呼吸する人類では休息時の 呼吸に全酸素摂取量から得たエネルギーの1〜2%しか使っていないのに対して、魚類ではそれが10〜25%にも達するそうです。溶存酸素の量が魚の活性に大きな影響を与えることは想像に難くありません。
(参考:http://www.awareiji.co.jp/ogata/zatugaku/zatugaku7.htm

溶存酸素量に関与する因子

まず羅列してみましょう。
1)前述の水温と気温
2)水深
3)水流
4)水質(塩分濃度を含む)などなど

水温は既出の表の通りです。気圧などが関与しますが話しが難しくなりますので割愛します。(ホントは良く理解できません。(^o^) )気温の影響が結構あります。これは2)の水深とも係わってきます。川などの流れ込みや波口での波によるエアレーションを除けば、酸素の供給先は海面だけとなります。従って溶存酸素は海面が最大で、水深が増すにつれ少なくなります。伊勢湾の場合は中央部の水深5mより深い海域(殆どの面積ですね)は夏場には慢性的な貧酸素状態となっているそうです。5mって投げ釣りでも届く範囲ですね。夏場では深場の釣りがいまいちというのもそういった理由があるかもしれません。このような現象は夏場に顕著で、冬場では起こりません。ではそれは何故でしょうか?

○冷やされると沈む
そうなんです。冷たい空気に触れて冷やされた海水は比重を増しますので(厳密には4℃が最大)、下に沈み込むことになります。もちろん表面の空気を一杯含んだ新鮮な海水ですので、有力な酸素供給源なのです。また沈下すると反流により底の海水の還流が促されます。

○温めれば?
これに対して夏場はどうでしょうか?海表面の水温は上昇しますね。当然比重も減少しますので、新鮮な空気を一杯に含んだ海水は表面にとどまることを余儀なくされます。海底では酸素の消費が進みますので、当然貧酸素状態となります。

○ちょっと脇道
冬場の海底での溶存酸素量が多い理由を説明しました。水温が低いこと自体もとけ込む酸素の量が多いし、酸素を消費する生物の活動・化学反応速度も低下しますので酸素量の維持には格好の条件が揃いますね。ここからちょっと脇にそれます。冬場の海底の水温が表面のそれより高いのは何故でしょう?普通は太陽エネルギーを受ける表面の温度が高く深度が増すにつれて水温はさがるような気もします。夏場の水温などこの典型です。冬場はどうか?と言えば、良く言われることは水の比熱が極めて大きく温度変化が少ないため、冬場でも温度の低下が緩やかなので表面よりも水温が高くなるという説明です。これはこれで正しいと思いますが、まだ他の要素も加味しないといけません。それには冷やされた表面水の沈降が係わっているのです。フェーン現象はご存じだと思いますが、それと同じ事が起こっているのです。沈降により水圧を受けて圧縮された水から熱が発生されるのです。難しくいえば断熱圧縮です。その結果、海底には熱エネルギーが供給されて温度の維持に一役買っております。また海底の温度が表面に比べ高くなるということは対流を生み酸素循環を助けます。

○潮の流れが良ければ
上述しましたように水の移動は酸素の供給の大きな要素となります。潮の流れが良くて(酸素の豊富な)海水の移入があれば問題はありません。しかし撹拌がされにくいシーンでは塩分濃度が問題となります。

○無視できない塩分濃度(正確には比重か?)
塩分濃度が低い程酸素の溶解度は(少しですが)高まります。河川の水は「流れ」の作用によっても豊富な酸素を蓄えております。湾内の海水もそれらからの酸素供給が期待できそうですが、現実はそうではないようです。比重(塩分濃度および温度)が異なる海水は私たちの想像以上に交わり難いようです。伊勢湾の場合は表層を覆う河川の流入水と中層の外洋水と低層に留まる(低温度による高比重水)は互いにあまり混じりあわず、3つの層を成しているそうです。その結果低層の海水は海表面から隔離されたような形になり、他方では上層や河川からの堆積する有機物をバクテリアが盛んに分解しますので、海底の酸素は消費されてしまいます。その結果夏期には伊勢湾中央部は慢性的な貧酸素状態となります。

#参考
塩分濃度の違う水が混じり難い例は「塩水くさび」が典型でしょう。これはシーバスを狙うルアーマンには良く知られた現象です。シーバスは中流域の奥まで河川を溯りますが、その拠り所となるのが、河川を溯る海水、すなわち「塩水くさび」です。河川の低層をくさびのように貫くことからそのように言われます。河口堰ができる前の長良川においてはその先端は岐阜市中まで及んだそうです。シーバスは完全な淡水ではなくその「くさび」に乗って俎上するのですね。

○伊勢湾海底での最優勢生物・・ヒトデ(スナヒトデ)
三重県水産研究部の調査では伊勢湾海底の最優勢生物はスナヒトデだそうです。何故そのようになるのでしょう?水棲高等生物に必要な溶存酸素量は2〜3PPM(上記表と単位が異なりますので注意下さい)で、魚類では3PPM、運動量が少ない貝類などの場合は2PPMだそうです。それ未満ではいわゆる死の海となります。ヒトデ類(棘皮動物)も決して低酸素下で棲息可能な生物ではないそうです。親の個体は二枚貝類などと同様に移動能力が乏しいため、貧酸素塊の出現があるとその影響をまともに受け個体数が激減します。しかしヒトデ類はその後急速に個体数を回復させます。その理由は世代交代をうまく行い、幼生の放出により種の存続を行っているのです。競争相手の生物は貧酸素塊によって大きなダメージを受けるのでヒトデ類が優占種となるのです。(エサの貝もいなくなるので、ヒトデが簡単に増えるとも思えませんが資源量の調査では個体数が卓越しているそうです)最近、ヒトデが多くなったような気がしますが、そのような海域は夏場に慢性的かつ波状的な貧酸素状態となっているかもしれません。

○にが潮と赤潮
赤潮は皆さんご存じですね。有害・無害を問わずプランクトンの大量発生です。富栄養化が元凶です。無害のプランクトンでも大量の酸素を消費しますし、彼らの死骸が沈殿すると海底の貧酸素化の一因となります。にが潮は強い風によって表層の波が沿岸から沖へ押し出された結果それと交代するように低層の貧酸素塊が海岸線を多い尽くす現象です。広範囲に亘りますので、逃げ場を失った生物がへい死します。伊勢湾の三重県側では強い西風が引き金となります。貧酸素塊が発生しなければ海底の栄養に富んだ水塊を浅瀬や表層に供給する働きも期待できますが、夏場の伊勢湾では慢性的に貧酸素塊が発生するため現在は非常な問題となっております。
(以前のアップで風の向きとにが潮の発生の既述が逆でした。またにが潮と青潮を混同しておりました。お詫びして訂正します。)

○干潟および浅海域の浄化作用
伊勢湾の櫛田川〜雲津川にいたる地域の調査では、干潟・浅海域(水深5m以内)の面積は1890年は193平方キロだったのに対し、2000年のそれはわずか73平方キロに過ぎません。特に干潟の現象が顕著です。窒素酸化物の浄化力に例えますと、1890年は120万3000人分の下水処理場の能力に匹敵していたものが、2000年には35万7000人分の能力へと激減しました。伊勢湾の中では既述のエリアは比較的干潟が温存されている場所ですので、伊勢湾全体のダメージの大きさは想像に難くありません。

○青潮と湧水
にが潮・赤潮ときたら青潮についても触れないといけません。青潮は大雨のあとの出水で海面が河川水(濁ってものを含む)で広く覆われる現象です。釣り人には非常に嫌われます。おそらく浅い沿岸部も淡水に近い状態となるので多くの魚が寄りつかないばかりか、漂流物も多く釣りに難渋します。河川水はこのように時として釣りの邪魔になりますが、投げ釣りのポイントとして好条件を備えている場所のひとつに河口付近の湧水帯が上げられると思います。多くは河川が河口付近で大きく蛇行した結果、本来の水の流れ込みのコースの先に好ポイントができることがあります。地形的にはワンドとなっていることが多いですね。同じ淡水でも青潮と湧水はどこが異なるか?それは海底からの上昇水流になれるか否かだと思います。湧水の場合は海底から湧き上がる訳ですので、上昇水流を生じ海底と水面との物質のやりとりを助けます。それは栄養分であったり、酸素であったりします。

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○実釣にどう活かす??
港湾などが造成されるとそれまで良く釣れた場所も年を追って釣れなくなるような感じがあります。特に波対策で湾の入り口が広範囲に閉ざされた場所などではその傾向が強い印象を受けます。潮の流れが悪くなり水質が悪化した為でしょうが、水深と溶存酸素の関係を考えるとその大きな原因に酸素不足があると思われます。きれいな海域は別としても港湾などでは、夏季の釣りはなるべく潮通しの良い場所を選びましょう。ヒトデがやたら多い場所は一考を要すでしょう。かっぱサーフの例会でも夏季は港湾よりも浜の釣果が勝っている傾向があります。冬の場合は酸素の供給はより多くなりますが、高水温期に長期に亘り低酸素状態が続くと底棲生物の種類や量が減りますので、当然エサも少なくなりますし、そのような場所はヘドロも溜まりやすい場所ですので、やはり潮通しの良い場所が有利となるでしょう。

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